G空間情報による自衛消防支援や現場活動支援のシステムが近未来的

消防行政

最近は、高さ 100mを優に超える超高層の防火対象物や延床面積が 10 万平米を超える極めて大規模な防火対象物が増えています。この規模の対象物で火災が発生した場合、消防隊はもちろんのこと、建物関係者で組織する自衛消防隊でも消防活動に不安がつきまといます。

例えば、自動火災報知設備により火災発生場所を把握できたとしても、自衛消防隊員は発報場所の状況を確認してから活動開始というのが通常ですから、広大な面積を有する施設では、有効な消防活動が施されていない時間が長くなります。在館者数も多く、避難所要時間も長くなる超大規模防火対象物では、避難に大きな影響を与えます。

プロの消防隊(公設消防隊)も、現場到着から火災発生場所の状況、防火対象物全体の在館者数などを早期に把握することは極めて困難です。

G空間情報(屋内位置情報)を測位する技術が目覚ましい

G空間情報とは、「位置情報、すなわち『空間上の特定の地点又は区域の位置を示す情報(当該情報に係る時点に関する情報を含む)』または位置情報及び『位置情報に関連づけられた情報』からなる情報」https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h25/pdf/25honpen.pdf と定義されていて、いわば屋内のGPSのようなシステムです。

このシステムを用いて、火災発生時から消防隊が活動するまでの一連の流れの中で、活動の効率化と迅速化と安全性の向上を図ろうとゆうのが、G空間自衛消防支援システムと現場活動支援システムいう代物です。

G空間自衛消防支援システムの構成

木原正則ら,「G空間情報とICTを活用した大規模防火対象物における防火安全対策の研究開発」より引用*以降同じ

スマートフォンの表示画面

火災発生時の通知
火点及び在館者情報の表示(地図情報)
行動指示
火災状況の報告
その他の機能

防災センターの表示画面(隊員と情報共有)

現場活動支援システムの構成

公設消防隊が使用する支援システムは、現場に進入する隊員が装着するスマートマスク(空気呼吸器)と、指揮本部で隊長が操作するタブレットで構成されています。

スマートマスク

赤外線カメラやディスプレイ、通信機能が備わっており、タブレットとの間で視界、命令、位置情報などを共有することができます。

1. スマートマスクの主な機能
①赤外線カメラ映像表示
②可視カメラ映像撮影(表示はタブレットのみ)
③タブレットからのメッセージ表示
④タブレットからの図面手書き情報表示
⑤空気ボンベ残圧表示⑥緊急通知(マスクからタブレット)

2. スマートマスクの主要仕様

呼吸器・面体ライフゼムX1・X1用面体
ヘッドマウントディスプレイ単眼シースルー方式
水平視野角:約18度(投影サイズ:1.5m先で約480×300mm)
赤外線カメラ有効画素数:160×100ドット、画角:水平57度×垂直36度
空間分解能:6.2mrad(距離10mで最小検知寸法68mm角)
可視カメラ有効画素数:800×500ドット、画角:水平79度×垂直49度
電池駆動時間約2時間(電池パック交換式)
通信機能LTE、無線LAN、Bluetooth
質量面体:約1㎏、呼吸器(ボンベ除く):約7kg、制御BOX:約1㎏
使用温度範囲‐10度~+60度
適用規格JIS T 8155:2014空気呼吸器(電子機器は除く)
防水防塵・防爆IP67・防爆非対応

現場情報タブレット

自衛消防隊が使用する「G空間自衛消防支援システム」で得られた情報を、公設消防隊の現場到着時に活動状況や逃げ遅れ者の位置情報等を共有します。

スマートマスクを装着して進入した消防隊の視界や位置情報、命令や経過等を送受信することができます。

1. 現場情報タブレットの主な機能
①隊員赤外線/可視カメラ映像表示
②隊員への指示メッセージ送信
③G空間自衛消防支援システムからの図面ファイル取り込み
④隊員への図面ファイル送信
⑤隊員からの緊急通知表示
⑥突入時間管理(ストップウォッチ・タイマー)
⑦赤外線/可視カメラ映像の録画
⑧マルチ隊員表示(最大4隊員)

2. 現場情報タブレットの主要仕様

OSWindows10 Pro 64bit
表示10.1型 1920×1200ドット
電池駆動時間約12時間
通信機能LTE、無線LAN、Bluetooth
外形・質量幅270×奥行188×厚み19mm、約1.1kg
使用温湿度範囲-10~50度、30~80%RH(結露なきこと)
防水防塵IP65
耐落下性能120cm(非動作時、26方向)

G空間自衛消防支援システムの導入効果

実証実験の結果はどうだったのかというと
東京ビッグサイト会議棟で実際の消防隊が実証実験した結果が公開されていました。

このシステムを導入することで、自衛消防隊の出火場所の発見や火災状況の報告、公設消防隊の要救助者の発見が迅速化したそうです。

出火場所の通知
行動内容システムなしシステムあり
出火場所の発見2分6秒1分9秒
防災センターへの連絡3分18秒1分12秒
初期消火着手3分58秒1分53秒
逃げ遅れ1人目発見5分12秒2分22秒
逃げ遅れ2人目発見6分22秒3分17秒
G空間自衛消防支援システムの導入効果/自動火災報知設備の発報からの経過時間(各3回実施した平均値)

出火場所や在館者の位置情報の表示、担当任務の行動指示、スマートフォンを使用して撮影した画像送信による防災センターへの状況報告等により、システムを導入していない従来の活動よりも効率的に活動を実施することができました。具体的には、出火場所の発見時間が約1分程度短縮され、その後の初期消火や避難誘導も迅速に実施することも可能でした。

現場活動支援システムの導入効果

G空間自衛消防支援システムで得られた要救助者の位置等の情報を、現場活動支援システム上で確認することで、要救助者のいる場所から優先的に検索を開始することができ、従来の活動よりも効率的な検索順序を決定することができるようになりました。

実証実験では、システムを使用することで、大規模な空間に残された要救助者を確実に発見し、救助することができました。

室内検索状況

スマートマスクの赤外線カメラ等を活用することで、視界不良の室内を検索する隊員の負担を減ら し、検索時間も短縮することにつながりました。また、隊長のタブレット上で、隊員が直視しているカメラ映像 やボンベ残圧等を共有することで、一元的な安全管理を行うことができ、活動する隊員の事故防止に繋がりました。 

行動内容システムなしシステムあり
1回目2回目1回目2回目
要救助者1人目発見できず発見できず4分11秒3分09秒
要救助者2人目発見できず発見できず7分54秒6分16秒
※15分間の活動時間における結果

実際の導入は実現化するのか

「G空間自衛消防支援システム」については
・導入するかどうかは施設側の判断に委ねられる
・導入したところで防火管理制度などで緩和されるものがない
などから、なかなか積極的に導入することは難しそうです。
ただ、自衛消防組織の人数削減から人件費ダウンや他の恩恵を受けることができる制度作りや、導入しやすい環境づくりが整えば普及の兆しはあるでしょうね。

一方、「現場活動支援システム」については

各消防本部が導入する上で、購入しやすい低価格の提供を進めていく必要があり、補助金等を利用できる仕組み等を検討しないといけません。

ともあれ、何か近未来的な情報ツール。
映画の中で見たような道具が現実の消防隊の装備品として普及していくのが楽しみでなりません。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

本記事は「令和2年度終了研究開発課題成果報告プレゼンテーション」https://www.fdma.go.jp/mission/develop/items/R2_seika_anzensenta.pdf
をもとに作成しました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました