新年に増加する三大救急事案|予防するポイントとは

応急手当

新年が明けました。対コロナへの自重気分もほぐれ、昨年よりお正月気分は好調な感じではないでしょうか。しかし、そんな時だからこそ、体に対して気をつけたいことがあります。この時期に多い三大救急事案を、予防するポイントと一緒にご紹介します。

お餅による窒息

お正月に食べるものといえば「お餅」です。年間どれくらいの方がお餅で窒息死しているかというと、消費者庁の調べを掲載します。

厚生労働省の人口動態調査によると、「不慮の事故」による死因のうち、食物が原因となった窒息による65歳以上の高齢者の死亡者数は、年間3,500人以上、中でも、80歳以上の死亡者数は2,500人以上です。さらに、人口動態調査の調査票情報を基に、消費者庁で平成30年から令和元年までの2年間を分析したところ、以下のことが分かりました。
● 餅による窒息死亡事故の43%が、餅を食べる機会が多い1月に発生していました。
● 特に正月三が日に多いことが分かりました。
● また、男性の死亡者数は女性の2.6倍も多いことが明らかになりました。

消費者庁オフィシャルサイトより

高齢者の「餅」または「もち」を含む窒息事故の死亡者は、消費者庁が2018~2019年までの2年間を分析したところ、65歳以上では2018年で363人、2019年で298人となり、計661人だったとも伝えています。
お餅、食べたいですよね。でも、普段、食べなれていないから事故が起こるんだとする見解もあります。
お餅を安全に食べるためのポイントは、

  • 餅は、小さく切り、食べやすい大きさにしてください。
  • お茶や汁物などを飲み、喉を潤してから食べましょう。
    (ただし、よく噛まないうちにお茶などで流し込むのは危険です。)
  • 一口の量は無理なく食べられる量にしましょう。
  • ゆっくりとよく噛んでから飲み込むようにしましょう。
  • 高齢者が餅を食べる際は、周りの方も食事の様子に注意を払い、見守りましょう

また、お餅は部分入れ歯とともに絡まって咽頭部に詰まることがあります。総入れ歯なら安定剤をしっかりつけたり、部分入れ歯ならお餅を食べる時だけ、ちょっと外しておくといった対策がいいかもしれません。

では、詰まってしまったらどう対応するのか。ポイントを説明します。

  1. 様子がおかしいとおもったら、「のどに詰まったのか」聞く
  2. 詰まっているのなら、「声が出せるか」聞く
  3. 「声が出せる」→咳をさせる
  4. 「声が出せない」→前かがみにさせ、背中をたたく、救急車を手配する
  5. 取り出せた→病院へ行って診察を受ける
  6. 取り出せない、反応がなくなった→心肺蘇生を行う

というのが、餅に限らず窒息に対する標準的な応急手当の手順です。
救命講習会などで「腹部突き上げ法」を習ったことがある人は、背中をたたくのと併用してください。
絶対やってはいけないのは、『見えてもいないのに、口に指を突っ込んで取り出そうとすること』です。さらに、奥に詰め込んでしまう可能性があるのでやってはいけません。
また、呼びかけに反応しなくなったら、心肺蘇生(心臓マッサージ)を躊躇なく実施しましょう。

餅という食べ物は、日本以外にもラオス、ベトナム北部、タイ東北部、中国の雲南省の少数民族なども、お祝いの時に餅をついて食べたりしています。
しかし、欧米諸国では食べられていません。だから医学的研究も進んでいないので、最も有効な窒息解除の手技は不明です。掃除機で吸ったことが奏功したという噂を聞いたことがありますが、実際のところ正しいのかどうかわかりません。個人的には掃除機をとってくる暇があったら背中を叩けよ、と思います。
窒息による心肺停止はとても予後が悪いです。まずは、窒息させないという予防策が最大の手当であることを肝に銘じましょう。

ヒートショック

この言葉が世に広まった当時は、「熱中症のことか?」とか「急に寒いところに出たらキュッとなるやつ」といった不確かな情報しか伝わりませんでした。最近はやっと内容まで理解してくれている方が増えましたが、まだまだ、救急現場で遭遇する機会は多い症例です(推測も含めて)。

ヒートショックとは、急激な外気温の変化により、血圧の乱高下などで体が負担を受けてしまうことです。結果、脳出血、心筋虚血、大動脈解離といった深刻な疾患をきたすこととなります。また、浴槽内で血圧が低下、意識を失って溺水という機序もヒートショックに含まれます。
年間でどのくらいの方が死亡しているのかというと、実はわかっていません。
判明しているのは、年間19000人がお風呂でなくなっているということだけで、これには転倒などによる事故も含まれた件数となっています。
しかし、印象的には入浴中に外傷死する人は”まれ”なほうで、圧倒的に血圧の乱高下による内因性によるものであると感じています。

その予防方法として7つのポイントが紹介されています。

1.お風呂に入る前の湯はり時に、浴室を暖めましょう。
2.脱衣室も事前に暖めておきましょう。
3.お風呂を沸かす際には、41度以下に設定しましょう。
4.入浴前には家族に一言かけましょう。
5.入浴前に麦茶などの水分を取りましょう。
6.いきなり湯舟に入らず、かけ湯をしてから入りましょう。
7.湯船に浸かる時間は、10分以内にしましょう。

STOP! ヒートショック https://heatshock.jp/

お風呂で意識を失っている人を発見したらどうする?

まず、反応がないのであればすぐに119通報して救急車を要請します。
次に、普段通りの呼吸があるかどうか確認します。
普段通りの呼吸が無ければ、床の上にあおむけにし、胸骨圧迫(心臓マッサージ)を始めます。
この手順は、119番通報すれば消防の通信指令員が教えてくれます。
だから、通報は携帯電話やコードレスフォンでスピーカーモードにして行ったほうがいいでしょう。

心肺蘇生の方法については、お餅のところで紹介した動画をご覧ください。
もう一つ問題なのが、”湯船の中だったらどうするか” です。

人手があるならば、湯船から出して床上に寝かすことができます。
しかし、非力な人だけだったらどうしましょうか。

以下に、湯船から人を運び出すテクニックが動画説明されています。

水難総合研究所

もうひとつ、お風呂から出せなかったら、何もしないのかというと
浴槽の水を抜いて、浴槽の中で胸骨圧迫を行う
ということを推奨します。
根拠はこちら 「浴槽内の傷病者に対して一般の救助者が行う胸骨圧迫の質について」2分30秒頃から

いずれにせよ、心肺停止に陥ったらなかなか大変です。そうならないためにも予防策をしっかりしておきましょう。

急性アルコール中毒

コロナ禍といえど、年末年始は飲酒の機会が増えます。すぐに成人式もあるので、急性アルコール中速の傷病者を搬送する機会も増えます。

急性アルコール中毒とは、要は呑みすぎなんですが、命の危険も伴います。

人は、飲酒をすれば酩酊と呼ばれる酔った状態になります。通常、血中アルコール濃度が0.02%から0.1%程度でほろ酔いと呼ばれるリラックスした状態になりますが、0.3%を超えると泥酔期と呼ばれるもうろう状態、0.4%を超えると昏睡期という生命に危険を生じうる状態になります。
どの程度からが急性アルコール中毒となるのか明確な基準はありません。しかし、泥酔以上の状態では意識レベルが低下し、嘔吐・血圧低下・呼吸数の低下などが起こり、生命に危険をおよぼす可能性があります。

e-へるすネット https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-001.html

実際の死因は、血中アルコール濃度が高まることによって呼吸・循環中枢が抑制されて死に至る場合、吐物による窒息、寝込んだまま低体温症、転倒して頭部外傷などです。

飲みつぶれた場合の対応として重要なのが、窒息の防止です。
倒れた人はあお向けやうつ伏せにせず「回復体位」にしましょう。

急な嘔吐で窒息しないよう回復体位にする

東京消防庁公式チャンネル

回復体位にしたあとも、絶対に一人にしないよう注意深く様子を見ます。
そして、衣類をゆるめて楽にし、できれば毛布やブランケットをかけて体温を失わないよう保温します。無理に吐かせたりすることはやめましょう。
もし、強く呼びかけても反応がなくなったり、顔色が悪い、手足が異常に冷たい、普段通りの呼吸をしていないなどの症状があれば、躊躇なく119番通報して救急車を手配しましょう。

救急隊は傷病者に対し、ただの飲んだくれだからと、ぞんざいに扱いません。それには、危険な疾患や体の変化が隠されていることもあり、わりと慎重な扱いをしています。
そんな救急隊員からの意見を言わせてもらえば、「酒は呑んでものまれるな!」ということです。
適量な摂取量を心がけましょう。

また、蛇足ですが、飲酒を強要し、急性アルコール中毒で死亡させた場合は刑法第205条(傷害致死罪)が適用され、3年以上の懲役が科せられることがあります。絶対に一気飲みなどのアルハラはだめですよ。

最後までご覧いただきありがとうございます。

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