救急隊員向け 悪い知らせの伝え方

コミュニケーション

近年、院外心停止に対する病院前救急でのコミュニケーションの考え方は変わりつつあります。2025年AHA心肺蘇生・救急心血管治療ガイドラインでは病院前救護体制は現場で蘇生中止を行えるよう準備されているべきであり、そのためには病院前救護の専門職が死亡告知に関する訓練を受けることが含まれる、と明記されました。

こうした流れは、日本の救急現場にも無関係ではありません。消防庁は、「明らかに死亡している場合の一般的な判断基準」として、①意識レベル300、②呼吸なし、③総頸動脈拍動触知不能、④瞳孔散大・対光反射消失、⑤冷感、⑥死後硬直または死斑、のすべてを満たす場合を挙げています。また、判断に迷う場合には指示医師に連絡し、先入観を持たずに的確な観察を行うよう求めています。つまり日本でも、現場で「明らかな死亡」を判断し、その後の説明を要する状況は制度上きちんと位置づけられています。

明らかに死亡していることをどう伝えるか

救急隊の教育は主として救命・安定化・搬送に置かれ、積極的な治療を行わない局面、死にゆく過程の症状緩和、緩和ケアの文脈、死亡告知には十分焦点が当たってきませんした。大体が先輩のマネか我流でやってきているという実情があります。

救急現場に適した悪い知らせの伝え方として有用なのがGRIEV_INGです。これは、Gather, Resources, Identify, Educate, Verify, Give space, Inquire, Nuts and Bolts, Give から成る、病院前救護者向け死亡告知の実践的なフレームワークです。成人ホスピス患者に対する病院前救護:NAEMSP・AAHPM共同声明の提言でも、修正版GRIEV_INGプロトコルが紹介され、死亡告知の自信と能力を改善した教育介入として位置づけられています。

悪い知らせは「家路、しずかにそえて」のご紹介

日本救急救命学会教育研修委員会では、GRIEV_INGの日本語版を紹介しています。

家の人や関係者を集める

家族や関係者を集め、可能なら重要な人がそろっている状態を作ります。玄関先や寝室の出入りの中で、ばらばらに話すよりも、説明を受ける人を一度まとめた方が混乱を減らせます。

自己紹介し関係と理解を確認する

自分が誰かを名乗り、傷病者本人と家族との関係を簡単に確認し、家族がどこまで状況を理解しているかを確かめます。「発見されたときはどのような様子でしたか?」「呼びかけて反応はありましたか?」と尋ねることで、家族がすでに深刻さを察しているのか、それとも蘇生で助かると考えているのかが見えてきます。ここを飛ばすと、結論だけが唐突に響きやすくなります。

死をはっきり伝える

死を明確に言葉にします。婉曲的な表現だけでは、家族が事実を正確に受け取れないことがあります。 英語では“dead” や “died” といった明確な表現を用いることが勧められています。
日本語でも「死」を避けると事実が伝わらないので、「お亡くなりになっていると判断しました」「今この時点で、回復の見込みはありません」としっかり伝えます。あいまいな表現は不確かな望みを持たせてしまいます。
ぶっきらぼうにいうのではなく、伏し目がちに「とても申し上げにくいのですが・・・」といった枕詞も用います。搬送しない理由を“拒否”ではなく“尊厳”として説明します。「搬送することが本人のためにならない」「尊厳を守るため」という医学的・倫理的理由で伝えます。

ずっと寄り添う(距離や会話・沈黙を保つ)

死を告げられた直後の、言葉を失うような重い沈黙や混乱のなかで、「急いで次の説明に移らず、物理的な距離と静寂の時間を共に保つ」ことです。何かを語るというよりは、孤立させずに同じ空間で伴走していることを態度(非言語のサポート)で示すフェーズです。

感情に配慮した言動をする

できるだけ簡潔に質問に答えます。ただし、同じことを何度も聞かれる場合もありますが、それは衝撃の中で事実を整理している過程で感情的な質問となっている場合があります。感情への対応として、「びっくりされましたよね」「急なことで気持ちがなかなか追いつかないと思います」「何度も病院へ連れてこようと頑張られたんですね」などと感情を促す言葉がとても重要です。

日常的な言葉を使う

起こっていることと現在の状態を短く説明します。救急現場では長い説明は必要なく、医学用語を使わず、できるだけシンプルに単刀直入に伝えることが重要です。

そっと語りを聞く

沈黙のあと、ご家族がポツリと発した言葉や、溢れてきた感情(「どうしよう」「信じられない」など)に対して、「遮らずに、そっとその語りに耳を傾ける」ことです。こちらは「聴く(アクティブ・リスニング)」という能動的なアクションに焦点を当てます。

援助や心のケアの相談先について伝える

家族を置き去りにしない姿勢を示します。バイスタンダーのフォローをはじめ、質問があれば再確認できること、市町村の心のケアの問い合わせ先があることを伝えます。

手続きの流れ(警察が来ること)を伝える

救急現場で特に重要な実務部分です。病院へ行くことはなく、この場に警察が来ることになり・・とこの後の流れなどを具体的に示します。悪い知らせの場面では、感情への配慮だけでなく、家族が「次に何をすればよいか」を理解できるようにすることが欠かせません。

日本語版の覚え方 別バージョン

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