混雑した場所ではAEDの到着が25秒遅くなる|救急救命士ジャーナル

研究と医療

救急救命士ジャーナル創刊号には投稿論文「杉木翔太,他:群衆密集度ならびに複数階を有する建築物がAED取得に要する時間に与える影響」が掲載されました。

日本救急医療財団が示すガイドラインでは、AEDは現場から片道 1 分以内の密度で配置することが提唱されています。150m/分の早歩きを想定した場合、300m間隔での設置となる計算です。


今回、杉木らはバイスタンダーが100m離れた地点にあるAEDを持ち帰るまでの時間を、混雑している場所(10m四方に70人以上が存在)と閑散としている場所(10m四方に10人以下)で比較しました。

結果、混雑群 vs 閑散群:127.8±10.6秒 vs 102.7±6.5秒(p<0.001)と有意に延伸することがわかりました。また、早歩きの速度も混雑時には117m/分から96m/分に低下し、人との衝突を避けるために立ち止まる回数も増加したと加えています。
混雑時にはAEDを発見するための時間も延長するので、AEDの存在を知らせる標識などの工夫やスマートフォンのアプリなどでPAD(Public Access Defibrillation)を早期に実施する取り組みも重要であること考察しています。

写真:50人/10㎡の人口密度

この研究の参考文献では、10m四方に約50人以上が存在すると移動に遅れが生じ始めるという報告があり1)それがどの程度の密集度であるかは、井上らが視覚的資料を提供しています(写真)2)。
 今回、杉木らは階段を利用した垂直方向での移動時間についても横断研究を行って、階層が増加するごとにAEDを持ち帰る時間は延伸することを明らかにしています。
 今後、マスギャザリングの救護体制において重要な資料になることは間違いありません。

このように、我々は感覚的に時間は伸びるであろうということは把握していたとしても、実験によりそれを証明し、実際にどの程度の割合で延伸するのかといった具体的な数値の提示は大変意義のあるものだと感じました。
些細な疑問や普段は慣例として踏襲されている事象であっても、ふと立ち止まって思考を巡らせると、それは一つの重要な疑問 “study” となり、研究という扉を開けるきっかけになるのだと思います。

1)山本昌和,他:駅の階段とホームの狭隘部における混雑時の歩行安全性評価 . 鉄道総合 技術論文誌 2013;27:43-8
2)井上拓訓,他:マスギャザリングイベントにおける救護移動速度.国士館 防災・救急救助総合研究2019;5:15-26.https://www.kokushikan.ac.jp/research/DPEMS/publication/pdf/journal_05.pdf

※この記事は日本救急救命学会ニュースレターより掲載しています。

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